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サルバドールの朝 Salvador

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いつの世も、権力は見せしめを必要とする。
人間は原則的に報復してしまう生き物である。
サルバドールの死は明らかにフランコ暗殺に対する報復としての処刑である。権力の決定の前で、個人はいかに無力かがわかる。
サルバドールがいかに人間としての魅力があっても、その魅力で看守の心をとかし人間的なやりとりをかわすことができるようになっても、権力が「死刑」と決断すれば処刑されるのである。恩赦を願う民衆の声も「見せしめ」を必要とする権力の決断を覆すことはできなかった。葬儀にいくら多くの民衆が集まっても、すでにサルバドールは処刑されてしまったのだ。
権力の決定の前で、個人はこんなにも無力なのだ。
なんというか、救われないこの気持ち・・・。
非常に良い映画である。「感動した」で終わってしまってはいけない、考えさせる映画であることは間違いない。

重すぎる後半とのバランスをとってなのか、前半までの銀行強盗のコミカルな描き方、アクション映画のような銃撃戦の描き方とロックなBGMには違和感を覚えてしまった。監督は英雄としてではなく等身大の若者として描きたかったと述べているけれど、こういう描かれ方をすると、スペインの状況を知らない人(日本人とか)には、単なる無鉄砲な若者、自由を求めてというより暴れたいだけの若者と見えてしまい、後半のサルバドールに感情移入できない人も多いのではないだろうか?
前半部分でフランコの圧政や理不尽な軍事裁判などももう少し描いていてくれたらもう少し違ったのではないかと思う。

しかし後半部分は文句なしに引き込まれた。考えさせられた。
死刑宣告から処刑まで12時間の猶予。恐怖を与える処刑具。そしてあまりに原始的で残酷かつ苦しみの長い処刑方法。処刑から絶命まで「待つ」非情さ。
私は死刑廃止論者ではなかったけれど、このような恐怖や苦しみを人が人に与えてよいのか?人間には人間を裁く権利などないし、死刑を下す権利もないのではないかと思ってしまった。

現在はこのような手法はとられていないはずだけれど、かつてのスペインで行われた残虐な処刑方法、そこに至るまでの克明な描写をみるだけでも一見の価値のある作品だ。

宣告を精神力で受け止めていくダニエルブリュールは素晴らしかった。いい役者だなあと思う。
by accomarie | 2008-06-11 00:00 | 映画 Le film

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